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2011年7月 8日 (金)

千曲市叙景2  7月6日

昔の大正橋には、橋本体とは別に赤いペンキで塗られた歩行者専用の橋があった。橋本体は私の主観的なイメージではうす緑色、下流側の幅2mほどの歩道は赤のイメージが記憶の片隅に残っている。現在の立派な大正橋は10年ほど前に古い橋の下流側に架け替えられ、両側にこれまた立派な歩道が整備された。

 私は平日は毎朝の通勤時に、この新しい大正橋の立派な歩道を自転車で走っている。歩道には地元の「小石(恋し)の湯」伝説にちなんだ99個の赤い角の取れた小石が埋め込まれている。「小石(恋し)の湯」伝説というのはこんな話だ。その昔、急病の看病で恋仲になった男が実は縁談の相手だったという縁で婚約した米吉とお政だが、米吉が仕事で江戸へ行ったきり戻らず、恋人の身を案じて八坂の智識寺十一面観音にお参りを重ねたところ、ある晩、夢に老人が現れて「米吉が踏んだ角の取れた赤い小石を100個、千曲川の川原で見つけることができれば米吉は帰ってくる」と言った。これは観音様のお告げとお政は連日川原へ出かけて小石をさがしただ、最後のひとつがなかなか見つからず雪の降る中で途方にくれていると、夢に現れた老人が川原に現れ、ある一点を指差して消えた。そこには暖かなお湯が湧き出しており、そこで最後の小石を見つけるとすぐに米吉が帰って来たという物語だ。

 「小石」と「恋し」がかかった題名を持ち、戸倉上山田温泉の発見の起源を描いた物語は、100年前には何もない川原だったこの場所が高度経済成長期に一大温泉地へと急成長を遂げた過程で産み落とされたのではないかと推測しているが、その真相を知るものはもはやこの世にはいないだろう。

 先日職場に4人の小学生がやってきて、この伝説について教えてほしいと言ってきたので、かいつまんで教えた。伝説の中で、お政の夢枕に立った老人は「おまえは『信濃なる筑摩の川のさざれ石も』という歌を知っているか」と尋ね、お政が「君しふみてば玉と拾はむ」と後歌を答えている。万葉集14巻3400番目に収録された作者不詳の東歌を言っているのだが、この千曲市の辺りで読まれたものであるかは実際のところ分かっていないようだ。

 大正橋の500mほど上流には万葉橋が架かり、西詰めの堤防には万葉公園がある。いくつかの万葉歌碑が置かれているが、中でも最も古い歌碑に、この歌が書かれている。昭和25年に、三角形のおむすびのような形の大きな石に佐々木信綱の揮毫によるこの歌の銅版がはめ込まれて建立されたと伝えられている。この最も古い歌碑は、子どものころから見慣れている。

 この温泉地で毎年行われている戸倉上山田温泉夏祭りや千曲川納涼花火大会に作詞家の山口洋子が来ていたことが縁で、この公園内に五木ひろしのヒット曲「千曲川」の歌碑が建ち、ボタンを押すと歌がフルコーラス聴けるようになっている。

 子どものころ毎日のように出かけた千曲川の川原には今、子どもが遊ぶ姿は見られない。千曲市がその名を冠した千曲川だが、市の象徴であるこの大河と地域の住民との関わりは、時代と共に希薄になり、現代の子どもたちには川で遊んだ思い出は欠落している。現代を生きるわれわれは川で死ぬ必要はない。川で遊んだ思い出と川で死ぬことを天秤にかければ、それは死ぬほどのことではないと誰もが思う。しかし、現代の千曲市民が千曲川から離れてしまった原因は、実はそんなことにはなく、多くの子どもたちは川遊びなんかには見向きもしない「仮想世界」という広大な遊び場を与えられて生きている。

 大人でさえ川での遊び方を知らない。この現実を考えずに川とのふれあいだ「水辺の楽校」だと手間と金と時間をかけてみたところで、わがふるさとの千曲川はアレチウリが蔓延り、大量のごみが投棄された「負の場所」であり続けることだろう。

 1キロ3分のペースで自転車を走らせながら水面を覗くと、水が澄んでいるときには魚の姿を目で追うことができる。せめて毎日の通勤時の川と過ごす時間を楽しみたいと思っている。

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